
中部大学教授 PICK UP特別顧問
深谷圭助先生の教育コラムです。
なぜ「辞書引き学習」は国を越えてインドでも通用したのでしょうか
インドでの辞書引き学習の実践が複数の新聞社に取り上げられた理由は、「外国人教師が授業をしたから」ではありません。
記事の多くが注目していたのは、子どもたち自身の変化でした。
子どもたちは、
・自分で言葉を探し
・意味を考え
・日常生活で使おうとし
・学ぶことそのものを楽しんでいました。
これは、特定の国や文化に固有の反応ではありません。人が本来もっている学びの姿だと私は考えています。
辞書引き学習の目的は、単に語彙量を増やすことではありません。
重要なのは、言葉を「与えられる知識」から「自分のものとして獲得する対象」へと変える点にあります。
インドの教室で子どもたちは、自然に次のような問いを自分に向けていました。
「これは知っている言葉だろうか。」
「この言葉はどんな場面で使えるだろうか。」
「前に聞いたあの言葉と関係があるのではないか。」
ここには、テストも即時の正解提示もありません。あるのは、自分の理解を確かめ、広げていく時間だけです。
地区教育長官が「この方法を続ければ、語彙力だけでなく言語運用力も高まる」と評価した背景には、この点への深い理解があったのだと思います。
日本の塾教育に目を向けてみますと、私たちはどうしても「早く解くこと」「正解にたどり着くこと」を重視しがちです。
しかし、AIが瞬時に答えを示す時代において、本当に価値を持つのは、
・言葉の意味を考え続ける力
・文脈に応じて使い分ける力
・分からない状態と向き合い続ける力
ではないでしょうか。
辞書引き学習は、派手な成果をすぐに示す学習法ではありません。
しかし、思考の速度をあえて落とし、学びを内側に定着させるという点で、これからの時代にこそ必要な学びだと、私はインドの教室で確信しました。
国や言語は違っても、子どもたちの目が輝く瞬間は同じでした。その事実こそが、この学びの価値を何より雄弁に物語っているように思います。